「たそがれ清兵衛」撮影現場の山田洋次監督
©Empire Pictures

山田監督の挑戦状
「寅さん」シリーズで有名な山田洋次監督は、本作で念願の時代劇映画デビューを飾った。その思いは相当なものだったと真田さんは証言する。
「『寅さん』で有名なベテラン監督が、初めて時代劇を撮るということでとても注目したよ。そして、送られてきた脚本に書いてあった演出意図に衝撃を受けたんだ。『時代劇にありがちなウソ臭いものをぶち壊し、その時代の侍をリアルに表現してみたい。そのため、スタッフや俳優のみなさんに多大な苦労とプレッシャーを与えるであろう。果たしてついて来れるかな?』という挑戦状とも取れるようなものだった。そんな山田監督の心意気は、ぼくが目指している世界と一致すると即座に感じた。殺陣や芝居をもっとリアルにできないものかと常々思っていたからね。おまけに、ベテラン監督が時代劇映画に初挑戦するからには、長年ため込んできた思いがあるはず。きっと面白いものができると予感したんだ。だから出演を即決したよ」
リアルな殺陣
リアルな侍映画を作りたいという山田洋次監督の要望に応え、真田さんは本物の日本刀を使って殺陣の稽古をしたと言う。
「時代劇にありがちな『よけられるのに何で斬られるの』とか、『それじゃ斬れないよ』という疑問が湧かないよう、リアルな殺陣を追求するという監督の姿勢にはぼくは大賛成だった。だから、殺陣にものすごくエネルギーを費やしたし、本当に物を斬った時の手首の動きを表現するために、本番前に本物の日本刀で実際に物を斬って動きを再確認してから撮影に臨んだんだ。殺陣師と剣道の先生の両方が納得できるものを映画で表現しようって思ったんだ。」
清兵衛と「ラスト・サムライ」
リアルさを追求した「たそがれ清兵衛」への出演は真田さんを内面から大きく変えたようだ。
「『たそがれ清兵衛』は、演技とアクションの両面でベストを尽くした映画になったから、『ラスト・サムライ』での仕事を快諾できたんだ。日本でやれることは取りあえずやったから、小さな役でもいいから参加して、リアルな日本を表現する助けに徹してみようって思えたんだよ。初めて『ラスト・サムライ』のスタッフに会った時、”リアルさを追求したい!”という彼らの熱意が強く伝わってきた。『まげを地毛で結う』と聞いて、この映画は『たそがれ清兵衛』の延長上にあると思った。『たそがれ清兵衛』でリアルさの追求を経験していなければ、ものすごく抵抗を感じただろうね。『たそがれ清兵衛』に出演して本当に良かったと思ったよ」
「ラスト・サムライ」で学んだこと
そうして出演した「ラスト・サムライ」で、真田さんは世界市場を狙った作品作りのノウハウを学んだようだ。
「『ラスト・サムライ』は世界向けに作られた映画で、どこまで分かりやすく日本を表現できるかという挑戦をした作品。世界市場をターゲットにして映画作りをする場合、どういう風にすればいいかというのを現場で学べたのは本当に大きな収穫だった。キャンペーンもずいぶん大がかりで、ヒットさせるためにここまでするのかと驚いたよ。トム(・クルーズ)と一緒にアメリカとヨーロッパのプレミアを回ったことで、一期一会を大切にする彼のマスコミへの対応やテンションを自分の細胞の中にすっかり取り込むことができた。だから、タイと台湾のプレミアでぼく一人だった時、トムがしていたような対応を自分もすることができたんだ。今までの自分とはずいぶん違うのに気付いたよ。今回、日本の観客をターゲットに作った『たそがれ清兵衛』が海外から注目されたけど、今後は『ラスト・サムライ』で得たノウハウを活用して、海外からもっと注目されるような日本映画が作れるよう、ぼくも協力できればと思うよ」
中国の次は再びハリウッド?
真田さんの次回出演作は中国の巨匠チェン・カイコー監督の作品だが、ハリウッドからも続々オファーが来ているという。
「中国映画の後は、秋に日本の作品に出演するのが決まっているけど、その後は未定なんだ。ハリウッドからもいくつかオファーが来ているけど、ハリウッド映画なら何でも出るということはしない。オファーはホラーや、アクション、『七人の侍』っぽい作品のメインキャラの1人だったりといろいろで、吟味しているところ。やるからにはステップアップしたいから、良い作品とキャラに巡り会いたいと思っているんだ」

惜しくも受賞は逃したものの、アカデミー賞外国語映画賞候補に選ばれた「たそがれ清兵衛」。日本アカデミー賞では12部門制覇という快挙を成し遂げた本作が、いよいよ4月からアメリカでも公開されることになった。主演の真田広之(以下真田さん)にインタビューした。
幕末の庄内に住む貧しい侍、清兵衛役を演じるにあたり、真田さんは舞台の地、庄内を訪れたという。
「清兵衛役をリアルに演じるには、まず、庄内の空気を味わい、体感しないとダメだと思った。だから、ロケが始まるずいぶん前に庄内を訪れ、2〜3日滞在して、寒さや匂いを記憶に焼き付けた。京都のスタジオでの撮影中も、その感覚を思い出しながら演じたよ。何よりも空気感を大事にしたかったからね。」
2004年3月20日
U.S. Frontline News www.usfl.com
セレブに直撃インタビュー
真田広之
Interviewing the Celebrities
(Special thanks to Lee Ginsberg/Block-Korenbrot, Keisuke Asada/The Libra
International)
はせがわいずみ=構成・文
今でも庄内弁で
庄内弁のセリフについては、地元の人も強い味方だったようだ。
「方言指導の人が作ってくれたテープを聞いて、事前にものすごく練習したよ。そして、庄内に行った時には、いろいろお世話してくれる地元の人に、『共通語を使わずに、地元の言葉で話してください』とお願いした。実際に息づいている言葉を聞きたかったからね。だから、観光中や食事会でも庄内弁を聞くことができた。そうやって彼らの言葉をじかに聞いていると、庄内の人たちの人間性や生活が伝わってくるんだよね。厳しい自然に立ち向かっているから、人間同士の絆が強くなる。助け合わなきゃ生きていけないというのが分かった。そんな感覚も役に取り入れたんだ。実は、撮影が終わってからも庄内弁が抜けなくなってね。未だにぽろっと出ちゃうことがあるよ。『たそがれ清兵衛』のスタッフやキャストとの会話には庄内弁が飛び出すし、彼らとのメールも庄内弁だったりするんだ。『お元気でがんすか〜』ってね(笑)」
2月29日のアカデミー賞授賞式が終わった夜、外国語映画賞受賞の夢が破れた「たそがれ清兵衛」の残念記者会見が行われた。笑顔で会見場に現れた監督の山田洋次(以下Y)と主演の真田広之(以下S)に、授賞式出席の感想などを聞いた。
Q:授賞式に参加した感想を聞かせて下さい。
Y:現場で生のアカデミー賞を見たというのは本当にすごいことでした。「映画の好きな人たちの熱い集まりだなぁ」というのが率直な感想で、圧倒されました。
S:第一線で活躍している世界中の映画人たちと同じ空気を吸えて、彼らからエネルギーをもらった感じです。
Q:発表の瞬間はかなり緊張しましたか?
Y:もちろんです。アメリカで公開中の「The Barbarian Invasions(邦題:みなさん、さようなら」がかなり有利だと聞いていたけど、「それでも?!」という思いはないわけじゃなかった。ドキドキしながら聞いていましたよ。
S:候補になっただけでも本望と思いつつも、いざ候補作品が紹介されると、やっぱり心の中で、「たそがれ清兵衛」「たそがれ清兵衛」・・・・・って唱えてました。自分がどれほどこの作品を愛していたか気付きましたよ。
Y:「もし、スピーチすることになったら、一緒にステージに上がって通訳して」と真田くんに頼んでいたんだけど、チャンスがなかったね。
S:通訳を仰せつかってたので、別の意味でもドキドキしていました。監督が何を言っても大丈夫なように、授賞式の最中もあれこれシュミレーションをしていたので、ショーも上の空でした。だから、「みなさん、さようなら」が呼ばれた時には、内心、ちょっとホッとしたんです。でもそれからすぐに悔しいって思ったけど。
Q:今回のノミネートは、日本映画にとってどういう意味を持っていると思いますか?
Y:大変重要なことだったと思います。何しろ20数年ぶりですからね。今回、外国語映画賞候補になった国のうち、日本以外はもっと頻繁に候補作品を出している。だから、今回のノミネーションは、「日本の映画よ頑張れ」っていわれたような気がしました。実は、外国語映画賞候補作品の監督が会したシンポジウムで、映画制作に対する政府の保護が話題になりました。「あなたの国はどうですか。この映画を作るときにはどうでしたか」ってね。各国とも、政府が映画制作を支援しているんです。日本も遅まきながら、昨年から予算措置が講じられるようになった。ぼくたちも頑張らなきゃいけないけど、同時に映画制作に対する本格的な公的支援が必要だと声を大にして言いたいです。日本映画界には、輝かしい伝統があるんですから。
Q:真田さんは、「ラスト・サムライ」と「たそがれ清兵衛」の2つの侍映画に出演していますが、両作品によって侍についての国際的理解が深まったと思いますか?
S:この2本は全く違うテーマの映画ですが、両作品ともサムライ・スピリットや日本の文化をしっかり描いているという共通点があります。だから、相乗効果というのは確かにあると思います。「ラスト・サムライ」に登場する侍と「たそがれ清兵衛」の侍はずいぶん違います。両作品を観ることで、日本の文化やサムライ・スピリットへの理解がぐっと深まると思います。侍も人によってずいぶん違うんだなってね。それによって、偏見に満ちたとらえ方がずいぶん解消されるんじゃないかな。これを続ければ、「ロスト・イン・トランスレーション」のない、映画を通しての真の文化交流ができるんじゃないかなと思います。
Q:世界を相手にするために、何か取り入れたい手法はありますか?
Y:感情のひだを丁寧に描くことを喜びとするのは、日本の伝統的な文化だと思います。ハリウッドの、これでもかというほど楽しませる手練手管を真似するよりも、そうした日本映画特有の”思い”の映像化を大切にするべきじゃないでしょうか。そうすることで、世界の人が日本映画に注目するようになると思います。
Photo by Izumi Hasegawa, HollywoodNewsWire.net
Photo by Izumi Hasegawa, HollywoodNewsWire.net
Photo by Izumi Hasegawa, HollywoodNewsWire.net
笑顔で記者会見に臨んだ山田洋次監督と真田広之
「たそがれ清兵衛」記者会見
(Special thanks to Naoko Yoshida/Shochiku,l Hidenobu Sawada/Daily Sports)
はせがわいずみ=構成・文